――「404」と「FOCUS」が指し示す新しいフロア感
ここ数年のK-POPを聴いていると、耳を引くのは「ドロップ一発のEDM」ではなく、一定のビートとじわじわ続くグルーヴだ。
その背後には、90年代クラブカルチャーを源流とするハウスミュージックとUKガラージの再評価がある。
90年代クラブからK-POPのチャートへ
ハウスの原型は、80年代シカゴのクラブで育まれた。四分の四拍子のキックが120〜125BPM前後で打ち続け、シンプルなベースとループするシンセが延々と空間を揺らす。ドラマチックなサビよりも「一定のノリ」を重視する音楽だ。
その後ロンドンに渡り、2-StepやUKガラージへと枝分かれする。4つ打ちの2拍目・4拍目を抜き、スネアとハイハットを細かく刻んで跳ねるようなリズムを作ることで、より人間的な「スウィング」が生まれた。90年代後半〜00年代前半のクラブを知る人にとって、このビートは身体に染みついた感覚だろう。
K-POPがこの感覚を本格的に取り込んだのは2010年代半ば。いまやハウス/UKガラージは、単なる「流行のサウンド」ではなく、楽曲設計そのものを支えるフレームとして再び重要になっている。
先駆としての「View」と「4 Walls」
この流れを語るうえで外せないのが、あるボーイズグループとガールズグループの2015年の2曲だ。
ひとつは、ディープハウス〜UKガラージ寄りのビートに、軽やかなボーカルを滑らせた「View」。テンポはおよそ120BPM。909系のキックに、16分で刻まれるハイハットと、わずかにレイドバックしたクラップ。サビはあくまで淡々としながらも、ベースとコードの揺らぎでトランス感を作る構造は、クラブの文法そのものだ。
もう一つは、ピアノ・ハウスとディープハウスを折衷した「4 Walls」。やはり120BPM前後のテンポで、ローを抑えたサブベースとパッドが夜の箱庭感を作る。その上で、ボーカルは薄くレイヤーされ、歌い上げるよりも「浮遊する」感覚を優先している。
どちらの曲も、当時隆盛だったEDM的なビッグドロップを使わず、あくまでビートとコード感で聴き手を引っ張る。ここでK-POPは初めて、「クラブミュージック的なミニマリズム」を大衆ポップのど真ん中に据えたと言っていい。
KiiiKiii「404 (New Era)」:UKガラージの現在形
この系譜を2026年にアップデートしたのが、KiiiKiiiの「404 (New Era)」だ。
BPMは約126。EDMに比べるとわずかに遅く、ハウスとしては標準〜やや速め。キックはしっかりとした4つ打ちだが、スネアやクラップの位置、ハットの細かい刻み方にUKガラージ的なスキップ感がある。ローをうねるように動くベースには、サイドチェイン・コンプレッションが深くかかり、キックと交互に呼吸するような躍動を生んでいる。
興味深いのは、ボーカルの「トーク・シンギング」比率の高さだ。多くのフレーズが極端に音域を抑えた話し声に近いラインで構成され、コール&レスポンスに近いフックが何度も反復される。クラブでフロアが一斉に口ずさむことを前提にしたような設計で、メロディの起伏よりもリズムへの乗り方を強調している。
その一方で、サウンドデザインは非常に現代的だ。90年代のローファイなUKGとは異なり、キックのローはタイトにコントロールされ、シンセはY2K〜2020年代のポップ・エステティクスに合わせて磨き上げられている。「懐古」ではなく、「当時の感覚を素材にした2026年のクラブ・ポップ」として機能しているのがポイントだ。
Hearts2Hearts「FOCUS」:ディープハウスの歌モノ化
同じく2020年代のハウス路線を象徴するのが、Hearts2Heartsの「FOCUS」だ。こちらはより典型的なディープハウス寄りのトラックと言える。
テンポは約122BPM。ソフトなキックと、16分で刻まれるハット、裏拍で鳴るクラップが、いかにもハウスらしい四つ打ちのグルーヴを作る。特徴的なのはピアノ・スタブとパッドの使い方で、コードチェンジごとに淡く立ち上がる音色が「都会の夜」のムードを演出する。
「404」がビートとラップ的なボーカルで押し切る「クラブ寄り」のハウスだとすれば、「FOCUS」は明確に「歌モノ」として設計されている。サビはメロディックで、90年代R&Bにも通じる流れを持ち、それをディープハウスのリズムに載せることで、ポップとクラブの両立を図っている。
ここには、ハウスを単なるダンス・トラックではなく、「ソングライティングの土台」として扱う、近年のK-POPのアプローチがよく表れている。
なぜハウス/UKガラージが「今」なのか
ハウスやUKガラージが再び前景化している背景には、音楽そのものの志向だけでなく、リスニング環境の変化がある。
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ショート動画との相性
一定の4つ打ちと予測しやすい構造は、15〜30秒のループ動画と相性が良い。キックのタイミングに合わせて編集しやすく、ユーザー生成のダンス動画にも使いやすい。 -
ロングランしやすいサウンド
派手なドロップに頼らないミニマルなハウスは、BGMとしても機能する。カフェや作業用プレイリストに入りやすく、結果としてストリーミング再生数を伸ばしやすい。 -
ジャンルの「編集可能性」
4つ打ちとループ構造を基盤にしているため、テンポを変えたり、ビートの質感を変えたりするリミックスが容易だ。sped-up/slowed + reverb/クラブ向けエクステンデッドなど、多数のバージョン展開とプラットフォーム横断がしやすい。
こうした条件が揃っているからこそ、KiiiKiiiやHearts2Heartsのような新世代グループにとって、ハウス/UKGは単なる「オマージュ」ではなく、戦略的な選択肢になっている。
これからの「ハウス的K-POP」に期待したいこと
「404 (New Era)」と「FOCUS」は、いずれも90年代ハウス/UKガラージの文法を継承しながら、サウンドの解像度やボーカルの配置をアップデートした楽曲だ。前者はフロア直結のUKGハウスとして、後者はソングライティング優先のディープハウスとして、それぞれ異なる方向からK-POPの現在地を示している。
クラブ文化の視点から見ると、次のステップは、それらの曲が実際のクラブやフェスの現場で、ハウス/ガラージの古典と並べて違和感なくプレイされるようになることだろう。
K-POPが「フロアを知らないダンスミュージック」で終わらず、ハウスやUKGの歴史の中にきちんと位置づけられる。その未来の入り口に、すでにKiiiKiiiとHearts2Heartsのビートが鳴っている。